物語作文「転校生がやってくる! 〜ミキとハルカの友情ストーリーPart2〜」(今田の授業)
「転校生がやってくる! 〜ミキとハルカの友情ストーリーPart2〜」渡 美樹(小5)
「ねえねえ、知ってる? 明日転校生がくるらしいよー」
「本当!?」
「うん。職員室の前通ったとき、松永先生がいってたのが聞こえたの」
「どんな子だと思う、アミ?」
何か、大切なひみつを話すような小さい声が、ミキの耳に聞こえてきた。アミのとりまきのクラスの女子達だ。
「うるさいわね。そんなこと知ってるわよ、ハナ。そんなことよりミカとエリが来週ウチにとまりにくる話はどうなったのよ」
と、アミがハナとミカ、エリにうんざりした様子で言っている。この話を聞いていたミキはびっくりして、すぐにハルカにそのことを伝えた。
「ねえ、ハルカ。明日、転校生がくるんだって」
「うん……」
しかし、ハルカの反応はイマイチだ。
今日は中学一年の夏休みが終って、ふつうの授業が始まった第一日目だ。まだ夏休み気分がぬけていないのか、朝の教室はいつもよりざわついている。
ガラガラッ。
教室の引き戸があいて、松永先生が入ってきた。
「みんな着席しろ。みんなにいい知らせをもってきたぞ。なんと、明日転校生がやってくるんだ!」
教室中が大さわぎ。ミキもさわいでいる。けれどハルカは、何もいわずだまっている。
「おい。今日じゃないぞ。明日だ。授業始めるぞー」
翌朝。教室でみんながおしゃべりをしているとき、いきなり松永先生が入ってきた。
「みんな、席につけ。おまちかねの、転校生だぞ」
松永先生がそういうと、さっきまでおしゃべりをしていたみんなが急に静まりかえった。
「おい、入っといでー」
と、松永先生が声をかけると、おずおずとすらっとした、顔だちのはっきりした女の子が入ってきた。男子達はかん声をあげている。
「おい。静かにしろ。自己しょうかいをしてもらうぞ」
そういわれて女の子は、よく通る声でしゃべり始めた。
「おはようございます。私の名前は小林アンナです。このお茶の堀中学校にくることができてとてもうれしいです。みなさん、仲良くしてくださいね」
アンナがしゃべり終えると、松永先生が、
「みんな仲良くするんだぞー。小林さんの席を決める前に、席がえをするぞー!」
ふたたびかん声があがり、席がえのじゅんびが始まった。いつものように先生が作っておいたくじ引きを、生徒一人一人が引いていく。くじには、新しい席順がかいてある。教室のあちらこちらからいろんな声が聞こえてくる。
「ヤッター」
「なんだ。アイツとかよ……」
ハナとミカがこそこそおしゃべりしている。
「小林さんて、すごくキレイだよね」
「そうだよねー。ハナもあんな風になりたいな」
「ねー。となりに席になれたらいいのに」
そんな二人の会話を聞いていたアミは、すごくふきげんそうだ。
「どーして私よりあの子の方が、めだってるのよ」
くじが全員にいきわたり、もうみんな新しい席に移動している。席は、ハルカとアミがとなりになった。
「ハルカ。となりになったんだから、ちゃんとしてよ」
いつもだったら、いいかえすはずのハルカが元気がない。
「あ。いいなーミキちゃん。ハナも小林さんととなりがよかったなー」
というハナの言葉にミキは、
「やめてよハナ。私は、別にだれとでもよかったのよ」
と、いった。ミキは、アンナととなりになったのだ。
「よろしくね。ミキちゃん。アンナってよんでね」
と、アンナが笑顔でミキに話しかける。その様子を見ていたハルカは、やっぱり暗い顔だ。
放課後。ミキとハルカはいっしょに帰っている。そこにアミがやってきて、
「ねえハルカ。となりの席になったんだから、いっしょに帰ってあげてもいいわよ。それにしても、あのアンナっていう子、気にいらないわ」
と、いった。それを聞いたミキは、
「もう。アミったら。そんなに人のこと、悪くいうもんじゃないわ」
と、アミにいった。
「別にいいじゃないの。本当にムカつくんですもの。じゃあ、ハルカはどう思うのよ、あの転校生のことを」
「……」
何も答えないハルカ。
「なんかいいなさいよ」
「……実は、ハルカ、アンナが転校してくること知ってたの」
「えー!?」
びっくりする二人。
「何で知ってたのよ」と、アミ。
「……。だって……、アンナはハルカのいとこなんだもん」
「!」
びっくりしすぎて言葉もないミキとアミ。
「なんでだまってたの? そんな大事なこと」
ミキが不思議そうにそういった。
「……アンナがだまっててって、いうから」
「何でよ」とアミ。
「それは……」
「アンナちゃんて、ドラマの『十二歳』にでてたでしょ? 結衣役だったよね。私見てたもん!」
朝の教室。エリがこうふんした様子でアンナに話しかけている。その声を聞いて、周りの女子達も集まってくる。
「本当だ! アンナちゃん、結衣役の人だ!」
「たしかに! 私もエレビ見てた!」
「ちょう有名人じゃん!」
口々に、大さわぎしている女子。
「ばれちゃった!? ハルカにはだまっといてって、いったのに」とアンナがにこやかに、答える。
「え!? ハルカがどうしたの?」
「あれ? ハルカから聞いたんじゃないの? 私達、いとこどうしなの」
「えー!? そうだったの!?」
といって、みんながハルカの方をふりむく。教室の後ろの方でハルカは弱々しい笑顔だった。
その日の夕方、ハルカはミキの家に遊びにきていた。ミキの部屋のベッドにこしかけたまま、何もしゃべらないハルカ。心配そうにミキが話しかける。
「どうしたの、ハルカ。何かあったの?」
「う、うん……」
「アンナのこと? 別にいとこが芸能人でも元気なくすことないじゃない」
だまっているハルカ。だが、少したってからため息をついて、ぽつりぽつりと話しだした。
「……ハルカ、小さいときからアンナとよく比べられてきたんだ。アンナはかわいくて、女の子らしいけど、ハルカは女の子らしくないから……」
「それで?」
「アンナみたいに女の子らしくしなさいって、よくいわれるんだ。だから、アンナといっしょにいると、いつもみたいになれないんだよね……」
そういって弱々しく笑うハルカ。
「そうだったんだ……」
なんといってなぐさめていいのか、分からないミキ。
アンナが転校してきてから、三日がたった。その日の国語の授業は、実力テストの答え合わせ。
「この答え、分かった人ー?」
と、松永先生がいった。とてもむずかしい問題だったので、ミキとアンナしか手があがらなかった。
「はい」
「はーい」
松永先生は、アンナを指名し、アンナは答えを黒板に書いた。書いたとたんに、アミがこういった。
「何あの字!? きたなくて読めないわ。中学生なのに信じられないわ。ハナ、ミカ、エリ、どう思って?」
実際、アンナが黒板に書いた字は、小学一年生なみだったのだ。ミミズがのたくったような字だ。
「たしかに! ハナより下手!」
「ミカもあそこまできたなくなーい。アミの方がよっぽど上手!」
「そうそう。アミの方が上手!」
ハナ、ミカ、エリがアミのことをほめる。
アンナは黒板の前に立ったまま、顔を真っ赤にしてうつむいている。
「おい、みんな静かにしろ。でも、アンナももう少しきれいな字で書けよ」
と、松永先生がいった。教室のみんなは、それを聞いてどっと笑った。アンナは、相変わらずだまっている。涙をこらえているようだ。
その時、ガタッという音がした。だれかが立ち上がったようだ。ハルカだった。
「やめなよ、みんな!」
ハルカは、教室中にひびきわたる声で言った。教室中がしーんと静まりかえった。顔を真っ赤にしてハルカは、怒っていた。
「アミ! アンナにあやまたら? 他のみんなもそうだよ。アンナは、昔から字がきたないのを、気にしてたんだから! みんながそんなふうにいったら、かわいそうだよ!」
教室のみんなは、ハルカの言葉に下をむいてだまっている。アミはといえば、気まずそうな表情をうかべている。
黒板の前に立っていたアンナは、涙を目にためたまま、おどろいたようにハルカをみている。その様子を見て、ミキがアンナに声をかける。
「アンナ。席にもどったら?」
我にかえったアンナは、自分の席に向かう。そのと中、ハルカに小声でこういった。
「ハルカ。ありがとう」
一週間後。
アンナはミキ、ハルカと仲良くなった。ハルカも、いつもどおりにもどり、元気そうに笑っている。
「そーいえば、明日って体育あったっけ?」
と、ハルカがいった。
「え!? わすれたの? ハルカが大好きな体育なのに?」と、アンナ。
「明日、マラソンだったよ。ハルカがんばろうね」と、ミキ。
「あー、そうだった。ミキにぜったい勝つぞ!!」
この会話を聞いていたアミはハルカたちにわざと聞こえる声で、
「体育が好きなんて野ばんな人たちね。それぐらいむだに体力使って、喜んでいるんだから」
それを聞いたハルカが、いいかえそうとするが、アンナが先にこういった。
「アミは体育が苦手だもんね。私の字が小学一年なら、アミの走るスピードは、ようち園レベルだよね」
それを聞いたアミは顔が真っ赤になった。
「ちょっと、アンナ。それはないでしょ」
「えー。でも本当のことじゃん」
二人のやりとりを聞いていたハルカとミキが、思わず笑ってしまった。それにつられたアンナとアミも、笑ってしまった。
四人の笑い声が、いつまでも教室中にひびいていた。